むぅちゃんの日記

ゆるゆるとオタ活してるむらかみの日記です

『言ノ葉ノ花』を読んで

(※若干のネタバレを含みます。)

 

『言ノ葉ノ花』(ディアプラス文庫)

著:砂原糖子

言ノ葉ノ花 (ディアプラス文庫)

言ノ葉ノ花 (ディアプラス文庫)

 

 私の一番好きな商業BL小説の話をしようと思う。

 

砂原先生のこの作品を知ったのは、ドラマCDが先だった。
このドラマCDで主役を演じるのは、某声優ラジオの有名コンビだった。某ラジオから入って二人のことが好きになったために、出演作を調べていたら見つけたのがこの作品だった。
見つけたその日のうちに小説を買って、読んだ後しばらく何もできないぐらいの衝撃だった。
実は商業BL小説を読んだのはこれが初めてで、それから全部で30~40冊ぐらいは読んだが、いまだにこれが一番好きだ。初めて読んだあの日からまだ1年もたっていないが、すでに何度も読み返した。

砂原先生についてはこの作品がきっかけで作者買いするようになった。まだ半分ぐらいしかそろっていないが、砂原先生の書かれる切ない系の話が好きだ。主人公たちが立ち向かう問題を、根底からひっくり返してはねっかえして幸せになるのではなく、全部包み込んで抱え込んでそのうえで二人が幸せになっていくような。幸せでたまらないのに、どこかで身を切られるような痛みが忘れらない読了感が好きだ。

 

『言ノ葉ノ花』あらすじ

普通に会社勤めをしながらそこそこ成功している人生を送っていた余村は、とある日から人が心から発する「本心の声」が聞こえるようになる。そのことから、余村の人生は変わってしまう。
人の心から発せられる「声」を聞いているうちに人間不信となった余村は、結婚するはずだった彼女と別れ、会社も辞めてしまった。生きるため以外の目的もなく家電量販店で契約社員として働く余村は、ある日から職場で働く長谷部から自分に好意的な「声」が発せられていることに気が付く。
「声」から今まで傷つけられることしかなかった余村は、本心を覗き見ることに罪悪感を抱きながらも、長谷部の「声」に安らぎを覚えるようになる。そうして長谷部の「声」に応えるように、余村もまた長谷部に惹かれるようになっていくが――。

 

言の葉の花のこの文庫本は前・後編のように二編からなっている。
砂原先生はあとがきで、二本目のほうこそが書きたかったところであると明かしている。
一本目も二本目も、本当にずっと心が痛くて仕方がなかった。

余村が心の声を聞いて傷つくのは、ずっと人のことを信じたかったから。
彼は心の声が聞こえる前は、おおよそ純粋に他人のことを信じていた。多少は見下していたとしても、慕っているものに関してはその言葉をきちんと信じていたのだ。
それが、彼女からの本心の告白、周りの人間の思っていることによってことごとく崩されていく。
だから彼は長谷部に対してもあまりにも脆い。
心の声が聞こえるようになってから、ずっと信じたくても信じられないできた人を、もしかしたら信じられるかもしれないと長谷部を見て思ってしまう。長谷部のことは信じたい。でも、信じて裏切られるのは怖い。その余村の葛藤は、心の声が聞こえなければなかったものだ。でも、読んでいると余村の感情がするするとわかりやすく流れ込んでくるような気がする。

感情移入できる、というのは恋愛小説(商業BLも広くくくればこれにカテゴライズされると思っている)において重要な要素だと思っている。
余村の感情、葛藤が丁寧に描写されていて、ずっと余村と一緒に長谷部に心を揺さぶられ続けた。
信じたい、でも信じられない、というのは人の心の声が聞こえなくても、きっと誰しも当たり前に抱く恐怖で、それが大きくなるということが怖いことであるというのは、突拍子もない話ではない。
だからこそ、余村の気持ちがわかる。
そして、余村が読み取った「声」からわかる長谷部の気持ちも、どれだけ余村を思っていることか分かる。
どうして幸せになれないのだろう。どうか幸せになってほしい。そんな祈る気持ちで読んでいた。

好きな人と、ただ好きだと想いあえば幸せになれるというわけではない。
「好きです」と告白して相手がそれにうなずいたら暗転して終了、なんて実際の世界ではありえない。物語として一部分切り取ることができても、でも本当だったらその人の人生はそれからも続いていく。少女漫画や月9ドラマのような山あり谷ありのロマンチックでドラマチックな物語の末にくっついても、その1年後には分かれているかもしれない。
実際どうなるかなんてなってみるまでわからない。
そんな、「物語の先」が描かれているように思う。

 

簡単にハッピーエンドでなんて終わらない。
いつまでもどこまでも幸せいっぱいな二人を見ていたい、なんて人にはつらいかもしれない。
でも読み終わると、きっと確かにこの二人はこれからもずっと幸せになるために頑張り続けてくれそうだと、そんな気持ちになれる素敵な話だ。